Japan-Bhutan Friendship Association

ブムタンはブータン中東部の文化・政治の中心地です。パロとならんで、ブータンでも最も早くから仏教文化が浸透した地域であること、ブータン仏教史上の最重要人物のひとり、ペマリンパの出身地であることなどから、千年以上この国の仏教文化の中心地であったことを誇るブムタンには、数え切れない聖地、古刹が存在し、また、地域文化の中にも仏教の伝統が深く浸透しています。

 

  • 面積:2,708.46平方キロ
  • 人口:16,116人 (2005 国勢調査) ※2011年推定値17,837人
  • 道路:329.83キロ (2011)

 

自然環境

平均標高約4,000メートルはガサに次ぐ高さで、人口が集中する谷間も標高が2,500メートル以上あります。このため、ブータンでは珍しい米のとれない県で、ソバの名産地として知られています。緑のカラマツを背景にピンクに染まった畑の広がる幻想的な風景は、ブムタンを代表する景観です。

ブムタン地方は古来より、中央を流れるブムタン・チュ(川)とその支流からなる4つの谷、すなわち、チュメ、チョコル、タン、ウラの4地域(ブムタン・デ・シ)に細分されてきました。急峻な渓谷がほとんどのブータンにおいて、これらブムタンの谷はいずれも比較的緩やかな谷間を形成しているため、その標高の高さとはうらはらの、のびやかな風景を造り出しており、人口のほぼ100%がこれら県域南部の谷間やその斜面で生活しています。

一方、北部山岳地帯は、夏の間だけ、遊牧民のヤク放牧地として利用されています。ワンチュク・チェンチネル公園の一部であるこの県北部、東西縦貫道が唯一国立公園内を貫通するトゥムシン・ラ国立公園に属する県南部など、県域の半分以上は国立公園です。

民俗と地域文化

ブムタン地方では、同じチベット語系の言語ではあるものの、ブータンの国語であるゾンカとはまったく系統の違う言語、ブムタンカが話されています。ブムタンカはルンツェのクルテカ、シェムガンのケンカといった姉妹言語とともにブムタンカ言語群を構成しており、西部のゾンカ、東部のツァンラカと並んで、ブータンの3大伝統言語の一角をなしています。中東部ブータンでは、同じ地域でも村ごとに違った言語を話すといった状況がごくふつうですが、ブムタンは例外的にほとんどの村でブムタンカが話されています。しかし、チョコル谷のドゥルに住むドゥル・ドク(Dur Drok)と呼ばれる遊牧民の古老にはブータンでもここだけで話されている、一般にブロカット(Brokkat)として知られる言語が残っており、またケンカを話す集団(Dur Moen)も存在します。

比較的標高の低い村ではソバやコムギの畑作が、高い村ではヤクの放牧が生業となっています。寒冷地であることもあり、冬の間はブムタンを離れ、トンサ、シェムガンといった標高の低い地域で暮らす季節移動の習慣があり、伝統的にブムタン以外に土地や家をもつ住人も少なくありません。

ブータン最古の寺のひとつであるといわれるジャンペ・ラカン、グル・リンポチェの聖地クジェ・ラカン、ペマリンパの法灯を伝えるタムシン・ラカンを始めとして、ブムタンには数え切れない寺院、仏塔、聖地があり、信仰上の、そして観光上のホットスポットになっています。ブータンの国教はドゥク派(カギュ派)ですが、これらの寺院はグル・リンポチェやペマリンパと直接結び付いたニンマ派に属しています。

交通と経済

東西縦貫道が県内主要部を貫通していることもあり、ブムタンはブータンでもっとも道路アクセスのよい県のひとつであり、電化も進んでいます。僻地の村がほとんどないという、珍しい県だといえるでしょう。伝統的なヤクの放牧、ソバやムギの畑作は、近年は労働人口の減少などの理由で衰退の傾向にあり、むしろ冷涼な気候と道路アクセスを活かしたジャガイモやリンゴ(対インド)、マツタケ(対日本)の輸出が第一次産業の中心となりつつあります。

地域名は「ブムタン」ですが、ブムタンのゾンは「ジャカル・ゾン」と呼ばれるため、県内中心部(チョコル谷の一部)は特にジャカルと呼ばれています。また、そこにある町は地区名からチャムカルと呼ばれています。チャムカルの町は東西縦貫道開通以来に発展した街道町ですが、1.5キロほど北西にあるデキリンへの移転が予定されています。また、2011年から2012年にかけて2度大規模な火災に見舞われ、現在復興中です。

ブムタンは古来毛織物の産地として知られ、特にカラフルな粗い毛織物である「ヤタ」は、敷物、ジャケットなどの用途でブータン全域で愛用されているだけでなく、外国人観光客の代表的なブータン土産になっています。また、ブムタンには早くからスイスの開発支援が入っていた関係でチーズ、ビールといった近代的な食品が特産となっており、伝統的なソバ粉のクレープやハチミツといった素材と合わせて、地域バリエーションのあまりないブータン料理の中で独自の地位を占めています。

これらの一次、二次産業より重要な産業は観光です。文化的伝統に富むことに加え、ブータン中東部では比較的アクセスがよいこともあって、パロ、ティンプー、プナカという西部3都市に次ぐ観光地となっており、外国人向け宿泊施設が20以上あります。2011年にはブムタン地方空港(バッパラタン)が開港し、さらに便利になりました。

(高橋洋)