Japan-Bhutan Friendship Association

日本ブータン友好協会理事 平山 雄大

12月14日(土)に、「2024年度第3回ブータンサロン」を開催しました。今回は、島根県隠岐郡海士(あま)町にある島根県立隠岐島前高等学校(以下、島前高校)の「グローバル探究」チームとして、7月29日~8月7日の日程でブータンを訪問した4人の高校生―2年生の水谷李緒さん、渡邉優奈さん、大崎哲生さん、1年生の鹿児島遙さん―にお話しいただきました。主な内容は、ブータン渡航における学び、渡航前後の探究成果、自身の変化についてです。7月に開催した前回のブータンサロンに続き完全オンラインのかたちで行い、当日の参加者は約50名でした。島前高校関係者をはじめ非会員からも多くの参加がありました。

報告の前に、「グローバル探究」について簡単に説明させていただきます。島前高校の課外活動である「グローバル探究」は、同校が採択されたスーパーグローバルハイスクール事業『離島発 グローバルな地域創生を実現する「グローカル人材」の育成』の枠組みの中で2016年度に始まりました。選ばれた4人のチームで年度初めから話し合いを重ね、探究活動のテーマを定めた後、地域での調査を踏まえてブータンへと向かい、帰国後は探究活動の分析、実践、全体のまとめ、最終報告等を行っていくという1年間のプログラムです。2016年と2017年は7~8日間の日程で西部(プナカ等)を、2018年には9日間の日程で東部(メラ等)を訪問しました。ブータンでのプログラムは、学校での交流、インタビュー調査やアンケート調査、都市・農村でのホームステイ、その他各年の探究テーマに沿った活動です。2019年は11日間とそれまでよりも長めの日程を確保し、滞在前半はチュカ県で開催されたPBL(Project Based Learning、課題解決型学習)ワークショップに参加し、ブータン人の高校生たちとの混成チームで「日本人観光客が思わずチュカ県を訪れたくなるような3分間の観光PR映像を作成する」というミッションに取り組みました。そしてコロナ明け以降は、海士町がチュカ県内の3つの高校を対象に始めたJICA草の根技術協力事業『地域活性化に向けた教育魅力化プロジェクト―ブータン王国における地域課題解決学習(PBL)展開事業―』(2024年12月終了)と連携しながら行ってきました。

今回(2024年)の「グローバル探究」チームの4人は、チュカ県滞在中は現地の高校生たちと寮生活をしながら、もしくは高校生の自宅にホームステイをしながら朝礼や授業に参加したり、各学校のPBLクラブで自身の探究活動に関して発表したりしました。水谷さんと鹿児島さんがチマラカにあるChukha Central Schoolに、渡邉さんがゲドゥにあるGedu Higher Secondary Schoolに、大崎さんがパクシカにあるPakshika Central Schoolに入りましたが、このように高校生各自が各地に分散するというのは新たな取り組みで、全体のプログラム設計をした我々「大人たち」にとっても大きな挑戦でした。

それでは、ブータンサロン当日の内容に入りましょう。進行役の私がしゃしゃり出ても仕方ないので、参加にあたっての注意事項、友好協会の紹介、当日のスケジュール説明をさくっと終わらせ、マイクを高校生に渡しました。

まず高校生4人の自己紹介と、鹿児島さんによる渡航スケジュール説明です。高校生たちはチュカの各学校の他にも王立ブータン大学パロ教育カレッジ、チュカ・ゾン、伝統医療院、伝統技芸院、ロイヤル・アカデミー(パロのパンビサにある王立学校)等を訪問したのですが、それらに関しても写真とともに紹介してくれました。

次に、渡航における学びの一端として、大崎さんが人々の生活に根差したチベット仏教に関して、水谷さんがブータンの人々の人間性・国民性、GNH、ディグラム・ナムジャ、国王と人々の関係の近さに関して、渡邉さんがブータンの食、建物、学校の様子に関して発表しました。友好協会の会員にとっては基本的には既知の内容でしたが、初ブータンでの高校生の素朴な発見が微笑ましかったです。彼らから見たブータンの高校生の特質は、「おおらか」「よく笑う」「とにかく優しい」とのことでした。

そして、それぞれの探究成果+αのパートです。大崎さんは、「キンニャモニャ踊りを楽しく広めるためには?」(※注:キンニャモニャは海士町発祥の隠岐民謡で、キンニャモニャ踊りは、両手にしゃもじを持って舞う軽快な踊りです)という自身の探究テーマに関して、ブータンの文化保護政策や学校での教育内容がヒントになりそうだという旨の報告をしてくれました。渡邉さんは、リサイクル肥料の効果探究とブータンの方々からのフィードバックを踏まえた渡航後の取り組みに関して紹介してくれました。サザエの殻を肥料として再利用するという渡邉さんの実験はなかなか刺激的で、ブータン渡航前後の自身の内面の変化に関する話(特に「死」に関して)は、参加者に強く訴えかけるものがあったように思います。

水谷さんと鹿児島さんは、「ブータンの手食文化を通して、日本の現代の「ながら食べ」問題は解決できるか?」というテーマで取り組んだ探究内容を発表してくれました。手食は、こぼさないように見ることが必要で、視野を広くしなくてはならず、手が汚れるため、必然的にスマホが持てなくなり「ながら食べ」問題が解決される……との仮説を、自ら企画した地域イベントや寮の中で検証してみたそうです。ブータンの高校生を対象とした手食に関するインタビューや検証を通した考察(手食は料理の「味」以外のことも思い出させてくれる、そして誰かと笑いながら食べるという空気感が「おいしさ」をパワーアップさせる)は、大変興味深い内容でした。

最後に、島前高校のコーディネーターで一緒にブータンに渡航した石井香名さんから促され、この「グローバル探究」への参加を通した自身の変化に関して話してくれました。要約すると、大崎さんはブータンで感じた利他の精神を実践していきたい、渡邉さんはブータンで知り合った人々のように周りにポジティブな影響を与えられる人間になりたい、日常で小さな幸せを見つけることを心がけたいとのこと。水谷さんは、実際に対面で生の交流ができたこと(愛をいっぱいもらったこと)の喜びと「心の中の表情」は日本人、ブータン人だからといって違いはなかったという気づきを通して、自身も愛いっぱいの人間になりたいとの決意を語ってくれました。鹿児島さんは、言葉や環境が違うからこそ分からないことを素直に人に聞くことができたブータンでの経験を通して、(良い意味で)遠慮しなくなったそうです。鹿児島さんは最後に、8ヵ月間続いた「グローバル探究」の活動のすべての瞬間がキラキラしていた、将来は自分もこのようなプログラムを生み出す側として関わっていきたい、とまとめてくれました。

休憩をはさんだ後の質疑応答の時間には、参加者から、仏教の教えと幸福の実感との関係性、他者の幸せを大事にする価値観、ブータン人の食事マナー、ブータンの犬の生態、日本とブータンの共通点、各探究活動の内容等に関する質問が寄せられました。

また終了後のアンケートには、「探究テーマがまったく違った内容だったので、色々な視点からブータンを知る機会になりました」、「ブータンに対する率直な感想を、高校生が堂々と語っていたのが良かったです」、「終始和やかな雰囲気で、良い時間でした」、「高校生それぞれの研究が、どれも面白い着眼点で楽しかったです」といった感想が寄せられました。

※日本ブータン友好協会『日本ブータン友好協会会報 ブータン』第165号、6-8頁より転載。

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