Japan-Bhutan Friendship Association

日本ブータン友好協会理事 平山 雄大

政権与党となったPDPの最初の大きな仕事は組閣です。新閣僚は、大臣経験を有する2期目の「ベテラン」と議員1年目の若手の混成チームで、選出された選挙区のある地域や「民族」(ネパール系を入れる)を考慮したものとなっています。ちなみに今回の選挙では、下院における女性議員数は、8名から2名に減少しました。ジェンダーバランスがよろしくない!と各方面から非難が出ています。女性は与党・野党1名ずつのみで、与党唯一の女性議員となったディンプル・タパは、シェリグ・ロンポ(教育・技能開発大臣)に抜擢されました。

4. 第4回国民議会選挙を振り返って

◆選挙に対する国民の意識は?

ブータン人の選挙に対する意識は、私は意外と高いような気はしています。今回、海外在住の「一般人」に投票の機会が設けられなかったことが新聞記事になったり、ネットで批判的意見が表明されたりしていました。これは、海外在住のブータン人が増えたことも理由だと思いますが、選挙への熱を感じさせるニュースでもあったように思います。

上述の通り、基本的に自身の本籍地でないと投票できませんが、お金のある人がスポンサーになってバスをチャーターして、投票のために集団帰省させる……というような例は結構あるようです。私の知り合いにも、パロ・ティンプーからモンガルのダミツェへ選挙のために集団帰省させるバスをチャーターして、けっこうお金を使った人がいます。

◆選挙が「分断」を助長している?

「選挙が対立を生み出している」という言説があります。対立、というのはいろいろなかたちを指摘できると思いますが、特に前回の選挙あたりから、東と西の分断、換言するとシャチョッパvsンガロップの対立構造が指摘されることが多いです。選挙は関係なくもともと分断しているのでは……という気も実はしていますが、前回の選挙も今回の選挙も、主に西部の選挙区で勝利を挙げ47議席中30議席(つまり約3分の2の議席)を獲得したDNT、もしくはPDPが勝利し与党に、主に東部の選挙区で勝利をおさめ17議席(つまり約3分の1の議席)を獲得したDPT、ないしBTPが野党となりました。与党と野党の得票数は前回も今回もだいたい18万票と15万票(得票率は約55%と約45%)で、その差は約3万票です。得票数だけをみると、決して大差での勝利とは言えなく意外と均衡している印象です。

シャチョッパにはシャチョッパとしてのアイデンティティがありますし、(ジグミ・Y・ティンレイ以来の)シャチョッパから首相を!という希望も強い様子です。BTP党首のダショー・ペマ・チェワンは、タシガン出身の生粋のシャチョッパです。実際、シャチョッパ内ではBTPの人気は高く、親戚・一族内で「BTPに投票しよう!」と声を張り上げていたアジャン(おじさん)たちの話をよく聞きました。

◆今後、どのような変化が起こりそうか?

ご存じの通り、経済の立て直し、雇用創出、都市と地方の格差是正、インフラ整備……と課題は山積みです。PDPだから突出してこの分野は強い!という明確な強みを私は知りませんが、外交に関しては、インドとの繋がりはより強固なものになると思います。教育政策では、セントラルスクール制度―映画『ブータン 山の教室』に出てきたような、教師も赴任したがらず教育の質も保障されない地方の小規模校や不完全学校は閉めて、各県や各地域の中央にある学校の、寮を含めた設備を充実させて良質の教育を行おうという取り組み―が継続されるはずです。学校の週休2日制導入に向けた議論も進められていくでしょう。

ゲレフ・マインドフルネス・シティ、つまりは経済特区の構想は国王発案です。政府は難しい舵取りを担うことになるでしょうが、次の第13次5ヵ年計画で大きく取り上げられ、予算もつけられ、大々的に実施されることはもう間違いないです。去年のナショナルデーの式典で、国王は「命をかけてこのプロジェクトを成功に導く」と宣言しました。それを否定するという選択肢はブータン政府、ブータン国民にはありませんし、もちろん国王を信じて着いて行く、自分ができることで貢献する、というスタンスは揺るがないはずです。

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「お話の会」当日は、参加者の皆さまから示唆に富むご意見・ご指摘をたくさん頂戴しました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

※日本ブータン友好協会『日本ブータン友好協会会報 ブータン』第163号、7頁より転載。

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